SFM Field Column

東口ヴィレッジ
「新宿眼科画廊」
たなかちえこが語る、ギャラリーから
21年間見続けた雑多だからこそパワフルな街

流れではじめたギャラリーが今や20年

アート展示や演劇などが行われるギャラリー『新宿眼科画廊』をたなかさんが新宿にオープンしたのは、20代半ばのこと。若くして、さぞや大きな決断だったのでは? という予想は見事裏切られた。

「20代の頃から夢とか目標って特になかったんです。」

そう語るのは、ギャラリー『新宿眼科画廊』でオーナーを務めるたなかちえこさん。
「ただ、その時やっていたことを続けてきたら、今がある感じで。ギャラリーも、目標を立てて始めたわけじゃなくて、もともと絵を描いたり表現するのが好きで、もっと自由に表現できる場所があったらいいなって思ったんです。いろんな人がやりたい展示や演劇をできる場所をつくりたい。当初は失敗したら別のことをすればいいやと思っていたし、実際こんなに長く続けられるとは予想もしていませんでしたが、その思いは20代から変わらないですね」

自身の表現活動を続ける選択肢はなかったのだろうか。
「しばらくは自分でも作品をつくりながらギャラリーをやっていたんですが、両立は難しいし、自分の色をギャラリーにつけたくなくて。でも悩みはしませんでした。むしろ、ここで展示する人たちを見て、自分とは全然違うなって。私は表現しなくても生きていけるけど、この人たちは表現を取ったら生きていけないんじゃないかなって。それが本物だなって思って、自然に表現することをやめました」

そもそも、なぜここ新宿の、しかも歌舞伎町と二丁目の間にギャラリーを開いたのだろうか。
「20代は演劇、映画、音楽などジャンルを問わず多様な表現に触れ、活動的に過ごした10年でした。その中で、写真ギャラリーのあるゴールデン街に出入りすることもありました。あそこは世代を超えて人が集まる場所で、学生運動を続けてきた年配の方とバーの店主が罵り合うくらい議論していたりと、今まで出会ったことのない人たちと話せたのはあの場所ならではの貴重な体験でした。もう一つは、場所の “記憶” も大きくて、ゴールデン街は小説家や映画監督、ミュージシャンが集う、70〜80年代のカルチャーの中心でしたし、花園神社では私が強く影響を受けたテント演劇が行われていました。唐十郎さん、寺山修司さんと横尾忠則さんのように、演劇以外の領域も巻き込んで文化をつくっていた。だからこそ、この場所で現代アートを含めて、ジャンルを横断する新しい流れをつくれたらいいなと思ったんです」

そんな思いから始めたギャラリーも、今や20年以上になる。その中で思い出深い展示について尋ねてみた。
「転機になったのは、アニメの今敏監督の展覧会ですね。20歳前後のとき、渋谷で『パーフェクトブルー』という映画を見て衝撃を受けて。それでアニメを観るようになったんですが、ギャラリーを始めて3〜4年経った頃、今監督から連絡があって、ここで展覧会をやりたいと。憧れていた人と一緒に仕事ができるなんて思ってもみなかったし、そこからギャラリーとしての世界が広がった気がします」


雑多な街・新宿とともに

たなかさんが新宿で思い出深いスポットとして紹介してくれたのは、カオスな新宿を象徴するような中華料理店だ。
「『上海小吃』という中華料理屋さんは、店内の内装もゴチャゴチャしていて、メニューもおそらく400種類くらいある不思議な場所です。一時期は毎日のように通っていました。先ほどお話しした今監督も展示期間中にお連れしたのですが、すごく気に入ってくださって、一緒に何度も通うようになったんです。今でも覚えているのが展示の打ち上げのとき、監督がみんなにセル画をプレゼントしてくれて、すごく貴重なものなので皆喜んで持ち帰ったのですが、ひとりだけ忘れてしまった人がいました。翌日、そのセル画を確認しにお店に行ったら、もうお店の中に飾ってあったんです(笑)。店の人に言ったら“いいものだから飾った”って。監督に連絡したら “面白いからそのままでいいよ” と言われて、多分今も飾ってあると思います(笑)」

20年以上にわたり、新宿でギャラリーを構えてきたたなかさん。当時と今、新宿の変化についても語ってくれた。
「20年前からずっと雑多で、人のパワーが強い場所だと思います。街自体は変わっても、その根本は変わらない。何かはわからないけど、みんなこの場所に何かを求めてきているのかなって。そうやって探しに来る人同士の間で交流が生まれている……、そんな気がします。そして、最近は歌舞伎町タワー周辺に若い子も増えて、さらに海外の人も加わって、以前よりもっと多様になっていて、それがすごく面白いですね」

ただし、新宿特有の多様性がこれからも続くのかは、誰にも保証できない。だからこそ、それが失われないように、それぞれが自分の立場で考える必要がある。
「未だにギャラリー側の事情で、展示を断られるアーティストがかなりいて、びっくりします。だからここは、何でもいいわけではないけれど、ジャンルにとらわれず、誰でも表現できる場としてありたい。アーティストもお客さんも、自分の居場所がなくて困っている人にはこの場所を提供したいし、ここで交流しながら何かを見つけてもらいたい。そんな場として、この新宿でギャラリーを続けていきたいと思っています」


インタビュー音声は、
Podcasts『新宿クロニクルで配信中!
Spotifyアイコンをクリック!

新宿眼科画廊
新宿眼科画廊は、現代美術を軸に写真、映像、演劇など多様な表現を横断するギャラリー/アートスペース。多文化が交差する新宿の地で、社会とアートを結ぶ「柔軟な思考」と「対等な対話」の場として、特徴の異なる5つの空間で、常に新たな表現の展示やイベントが同時開催されている。
たなかちえこ
「新宿眼科画廊」オーナー
2004年、歌舞伎町の片隅に「新宿眼科画廊」をオープン。
当初は自身のアート活動やデザイン業などを並行して行うが、数年してギャラリー一本に。多様な文化や価値観を尊重し、アーティストが自由に表現できる場を目指している。
HP X(旧twitter) instagram

上へ戻る