SFM Field Column

牛込神楽坂ヴィレッジ 東京日仏学院 エスパス・イマージュ

映画プログラム主任
坂本 安美さん

新宿のプチフランス、東京日仏学院はル・コルビュジェに師事した建築家・坂倉準三の設計した螺旋階段をはじめとする美しい建築物、ライブラリー、美術ギャラリー、そして映画館を備えた文化施設です。映画館「エスパス・イマージュ」で27年にわたりプログラムを企画された坂本安美さんにお話を伺いました。

私が東京日仏学院(旧アンスティチュ・フランセ東京)で開催する映画プログラムの企画や運営に携わるようになったのは、1996年です。
 きっかけは、フランス映画でした。私は子どもの頃から映画が好きで、高校生の頃には「監督の名前」で映画を観るようになりました。

最初に好きになったのが、『大人は判ってくれない』、『映画に愛をこめて アメリカの夜』で有名なフランス人監督、フランソワ・トリュフォーです。自宅にあった『定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー』という本を読んだら映画について語る言葉の豊かさに惹かれて、映画を語る、批評するという仕事に興味を持ちました。それで大学生の時、フランスの映画雑誌『カイエ・デュ・シネマ』の日本版の編集部に出入りしていたら、映画批評を書かせてもらうようになって。

同じ頃、東京日仏学院にも通っていました。ここは1952年に創立されたフランス政府公式の語学学校・文化センターで、生徒や一般向けに日本で公開されていない、英語字幕だけのフランス映画をたくさん上映していたんです。

そのうちに、東京日仏学院の元院長で映画プログラムも担当していたマリー=クリスティーヌ・ドゥ・ナヴァセルさんと知り合い、お手伝いするようになりました。映画のプロでもあるナヴァセルさんのもとで、企画を立て、監督など関係者を招聘し、上映するというひと通りの仕事を学びました。2001年、彼女の院長としての任期が終わる時に「あなたが続けて」と言われて、今に至ります。

それからは多い時に毎月1回、最近でも年間7、8回、プログラムを組んでいます。2012年には、フランスの女性監督特集を初めて企画しました。特に若手の女性監督を集めたプログラムで、『それでも私は生きていく』という映画を撮ったミア・ハンセン=ラヴ監督を招待しましたね。

今年は、ベルギー人の女性監督、シャンタル・アケルマンのプログラムを組みました。2022年に彼女の作品が、イギリス映画協会が10年ごとに選出する「史上最高の映画100」で1位に選ばれるなど、近年、世界で再評価されている監督です。彼女の4作品を上映したプログラムには、高校生も足を運んでくれました。

監督や俳優ではなく、「映画とシャンソン」や「地中海映画祭」などテーマで見せる特集も組んでいます。映画はいろいろな見せ方ができるので、企画のアイデアが尽きることはありません。

映画プログラムでは監督や俳優、映画批評家を招待することも多く、一緒に神楽坂でご飯を食べたり、飲みに行ったりもします。神楽坂は神社があったり、和食や和菓子のお店があったり、昔ながらの日本の文化や歴史を感じられる場所なのですごく喜ばれますね。「夏目漱石がここでご飯食べてたらしいよ」なんて言うと、みんなビックリします。古民家をリノベーションした居酒屋「神楽坂 カド」には、イギリスの女優、ジェーン・バーキンも連れて行きました。

今年の秋は、新作『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』が9月に公開され、日本でも大変人気の高いアルノー・デプレシャン監督をお迎えし、デビュー作から近作まで一挙特集します。

フランス映画って小難しいイメージがあるかもしれませんが、アメリカ、ロシアなどいろいろな映画を取り込みながら自分たちの映画を作ってきた国なんです。フランソワ・トリュフォーやジャン=リュック・ゴダールといった世界的な巨匠もアメリカ映画が大好きで、アメリカ映画がなかったら彼らの映画は生まれていません。
 フランス映画の魅力はものすごくハイブリッドで、多彩なこと。きっと、こんな映画もあるんだ!と驚くと思います。ぜひ東京日仏学院のプログラムを観にきてほしいですね。

テキスト:川内イオ 写真:鍵岡龍門

東京日仏学院
休館日:月曜日
東京都新宿区市谷船河原町15
https://www.institutfrancais.jp/tokyo/
神楽坂 カド
営業日:夏季休暇、年末年始を除き、毎日営業
東京都新宿区赤城元町1-32
https://kagurazaka-kado.com/

上へ戻る