SFM Field Column

東口ヴィレッジ 宇野亞喜良の壁画とバー・ルタン

美術家、文筆家、非建築家、映画批評家、ドラァグクイーン
ヴィヴィアン佐藤さん

新宿東口は劇場で賑わうエリア。かつて寺山修司の「星の王子様」の公演ポスターなどを手掛けたことでも有名な宇野亞喜良直筆の壁画で飾られたバー「Le Temps(ルタン)」は、演劇人や芸術家が多く集うバーです。新宿の街を「屋根のない美術館」、まさにフィールドミュージアムと例える美術家・ドラァグクイーンのヴィヴィアン佐藤さんにお話を伺いました。

私は仙台出身で、高校まで仙台で過ごしました。それから東京の出版社で3年ほど働いた後、金沢工業大学の建築学部に進学しました。本格的にメイクをするようになったのは、学生時代。アルバイトをしていたショーパブのママが、元祖ドラァグクイーンともいえる方で。私の名付け親でもあるママは「極端なもの」に美しさや面白さを見出す人で、「醜さと美しさは表裏一体」と教えてくれました。

金沢には8年ほど住んでいて、その間に新宿に遊びに来るようになったんですよね。それでこの街が好きになって、大学院で博士号を取った後、建築家の磯崎新さんの事務所に就職したのを機に、新宿に引っ越しました。私が働き始めた1997年、西新宿の東京オペラシティタワーにNTTインターコミュニケーション・センター(ICC)がオープンして、最初の展示が磯崎さんの展覧会だったんです。私はそこの現場の担当になって、自宅からICCに通っていました。

磯崎新アトリエを2年ほどで辞めた私は、ニューヨークにある「建てない建築家」の夫婦が経営する事務所で働きたくて、渡米しました。「建てない建築」では、建物は雨風をしのぐためのビルディング、建築はアーキテクチャと分けて考えます。アーキテクチャは、ひとつの哲学。だから絵でもダンスでも、ポエムでも成り立つんです。私のヘッドドレスも、「頭上建築」と呼んでいます。

実際、海外には建てない建築家がたくさんいて、私もニューヨークで学びたかったのですが、それほど給料を出せないと言われてしまい、数週間で泣く泣く帰国しました。

そのタイミングで、大きなショーパブのママをやらないかという依頼が来たんです。「お金を貯めてもう一度アメリカへ」と思ってその仕事を請けた後、歌舞伎町でも、六本木でも、銀座でも同じような仕事をしました。でも、いまだにニューヨークに戻れません(笑)

磯崎新アトリエを辞めた後、立場的にはずっとフリーランスなので、仕事がなくて暇なときはよく新宿の街を歩きました。そのうちに、不思議な建物や道がたくさんあると気づいたんです。

例えば新宿3丁目にある世界堂のすぐ横に、めちゃくちゃ細いビルが建っていて。あのあたりはもともと千鳥街ビルという飲み屋が集まったビルだったんですが、1964年の東京オリンピックの区画整理で、新宿2丁目に移ったんです。だから2丁目に、「新千鳥街ビル」という飲み屋街があるんですね。そして、昔の街区と新しい街区の境目に取り残されたのが、世界堂の隣りのビルなんです。

意識して見渡すと、新宿にはそういう気になるところがあちこちにあるんですよ。それで本を読んだりスナックで地元の人に話を聞いたりして、歴史を調べるようになりました。通りやエリアを「線」や「面」で捉えたり、土地を縦の時間軸で見るのも楽しいんですよね。

こんなところになぜ!という驚きでいえば、寺山修司の舞台、宣伝美術を手がけたイラストレーター、宇野亞喜良さんの壁画があるバー「Le Temps(ルタン)」もそう!4、5年前に初めてきた時、壁一面が宇野さんの手描きのイラストで埋まっているのを見て本当に感動しました。

新宿は、全体を見ても魅力的な街。西側のオフィス街や歌舞伎町、大久保のエスニックタウン、迎賓館や赤坂離宮があるハイソなエリア、そして日本で一番大きなゲイタウンもある。ほかにも毛色の違うエリアがいくつもあって、混ざり合わずに共存しているのが特徴です。

私はそういう新宿の在り方にすごく惹かれますね。美術家、文筆家、非建築家、映画批評家、ドラァグクイーンでもある私は「I LOVE 新宿」、そして「I am 新宿」だと思っています。年に数回、新宿の街を歩くツアーを開催しているので、ぜひ参加してくださいね!

テキスト:川内イオ 写真:鍵岡龍門

Cafe & Bar Le Temps(ルタン)
定休日:無休
東京都新宿区新宿3-31-5 新宿ペガサス館 B1F
https://tabelog.com/tokyo/A1304/A130401/13095705/
市谷の杜 本と活字館
開館時間:平日 11:30~20:00・土日祝 10:00~18:00
休館日:月曜・火曜(祝日の場合は開館)
東京都新宿区市谷加賀町1-1-1
『宇野亞喜良 万華鏡印刷花絮 Aquirax Uno Kaleidoscope -Behind the Scene-(後期)』

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